17 ラジェシュとアンナ

 モーハンを除くみんなで夕食を囲みながら、無意識にラジェシュを観察していた。
「ん?」
 ラジェシュが微笑して首をかしげる。
「食べる?」
 彼が自分の手元にあったピザの大皿をこちらに差し出した。「あ、はい」ととりあえず一切れもらう。
「遠慮しないで! 育ち盛りなんだから」
 アンナがニカッと真っ白な歯を見せて笑った。ぼくは「あ、はい」ともう一切れ取り皿に移す。ラジェシュが机にピザの大皿を戻す。もともとあった場所よりも、心持ちぼくに近いところに。
 アンナ、ラジェシュ、父の三人が雑談を再開する。彼らはぼくが会話に加われば温かく迎え入れてくれるが、ぼくが黙っているときに輪に入ることを強要したりはしない。
 相変わらず、彼らの口にモーハンの名前は上らない。
 ちらりと一瞬だけラジェシュを盗み見る。細身な彼にぴったりの採寸のシャツとスラックスは、いつもピシリとアイロンがかかっている。服のシルエットのせいかこなれた軽い身のこなしのせいか、彼には都会的で知的な雰囲気がある。しかし終始モーハンによく似た人懐っこい笑みを浮かべている上、口を開けばかなりのおしゃべりだからとっつきにくさはまったくない。
 そんな彼が自宅の一隅で祭壇に“置かれた”モーハンに熱心に祈りを捧げるさまを想像すると、じわり、と言いようのない気味の悪さが胸のうちに黒い染みを作る。
 一切れのピザを炭酸水で飲み下してから、今度はアンナをちらと見る。
 彼女の目の形は本当にモーハンに似ている。だけど受ける印象が百八十度違うのは、瞳に宿る意思の差だろう。
 モーハンはおっとりとした性質で、野心はほとんど感じられない。対するアンナは仕事と出世に大いなる熱情を寄せるエネルギッシュな女性だ。
 無論彼女は“冷徹な仕事人間”などではない。よく笑い、思いやりがあって、ぼくのような無口でつまらない人間にもいつも親切にしてくれる。
 だけど、彼女は『見た目が気持ち悪いから』という最低な理由で生まれたばかりのモーハンを育児放棄した。
 だけど——だけど、今は一緒に暮らしているではないか?
 ——モーハンの祖父が死に、祖母とモーハンの二人暮らしは心配だから、ラジェシュが彼らをベンガルールに呼んだ。
 そうだとしても、全員でひとつの家に暮らす必要はなかったはずだ。おそらくラジェシュもアンナもかなりの高給取りで、あるいはこのマンションでもう一部屋契約することは難しかったのかもしれないが、この近辺でもう少しリーズナブルなマンションをもう一部屋契約することは十分に可能だろう。例えばだが、ラジェシュが基本的にはモーハンのいる家で暮らし、アンナとは別居婚をする、という形をとることもできたのでは?
 今アンナがモーハンと暮らしているのは、彼女の中に『過去の自分を悔い改め、モーハンとの関係をやり直したい』という気持ちがあるからだ——という考え方は、ちょっと彼女に対して甘すぎるだろうか。
 ばちりとアンナと目が合った。
「あ、おいしいです」
 ごまかすようにもう一切れのピザにかじりつく。
「よかった。足りなかったら温めるから気軽に言ってね」
 アンナがほほえましそうに、モーハンによく似た形の目を細くした。